ぼぶろぐ2

音楽、本、家族、たまに筋肉。

今日も重松清の小説に心をえぐられる

重松清の小説はとにかくココロに刺さるものがおおい。ものすごく深いところに瞬時に届いて、えぐられる感じ。すべての作品を読んだわけではないが、特に長編は、いままで読んで涙が出なかったものがないんじゃないかというくらい、とにかく刺さる。

 

重松清の小説には、ひとつ、大きなテーマがあるような気がする。挫折と再生。夢破れたり、心が折れた主人公が多くて、そんな彼らが、本当に再生できたか、その後成功したかどうかはほとんど書かれることがないように思える。ただ、そこに至るまでの心の動きが、すごく丁寧に描かれていると思う。

 

主人公が自身の陥っている状況を自身が「受け入れる」ところから始まって、その状況を咀嚼して冷静に自分と周りを見直して、前向き/右肩上がりではないけれでもフラットな状態にはなって、新たなスタートラインに立つか立たないか…

 

「描く」と表現したのは、心の状態が文章で書いてあるのではなくて、読者に主人公の心が伝わるように会話や行動が描かれているから。そこが、すごくいい。小説の中の世界に浸ってしまう。

 

また、その小説の中の世界が、すごく現実にありそうな、共感できる世界だというところが、ついつい一気読みしてしまう原因のような気もする。

 

かつて、周囲から大いに期待されていた主人公。それが、自他ともに思い描いていた明るい未来に到達できず、その期待が、落胆に変わることの恐怖。かつて自分をちやほやしてくれた(ように見えた)人たちが、気が付いたらすごく先に進んでしまっているという焦り。主人公に比べたら、かつてぼくに寄せられていた期待など本当にちっぽけなものだったと思うけど、それでも、その期待にいまだ応えられていない、現状を話せば相手を落胆させてしまうのではないかという怖れは、理解できてしまう。たとえ、その「怖れ」が、本当に、本当に必要ないものだということを頭ではわかっていても。

 

そんなときにかけてほしい言葉は、頑張れ、でもなければ、きみにはできる、でもないし、みんなそんなもんだよ、でもない。ただ寄り添って、黙っていてくれればいい。

 重松清の小説には、そういう優しさと、結局は自分を再生できるのは自分でしかないという真理があるような気がする。

 

みんなのうた (角川文庫)